ワーキングメモリとマインドフルネス心理療法(2)
ワーキングメモリ(WM)は、前頭前野や帯状回の機能である。
- ワーキングメモリは前頭前野と前部帯状回の機能
=WMは前頭前野背外側部〜帯状回認知領域〜帯状回記憶領域〜海馬〜側頭葉
このルートで、過去に習得して記憶した智慧を照合して、賢明な行動をとれる。
=前頭前野眼窩面〜帯状回情動領域〜扁桃体〜海馬
認知領域を働かせず、ここだけが活性化すると、扁桃体が興奮して感情を起こす。
- 前部帯状回の認知領域と情動領域は相互に抑制
=帯状回情動領域←→帯状回認知領域
一方が活性化する時、一方が抑制される。理性は感情をおさえ、感情は理性をおさえるというなものだろう。
帯状回の認知領域と情動領域は、相互に抑制していることは、興味深い。情動領域が活発に働いていると、認知領域を抑制する。理性的な判断(結果を推測し、適切な対処法を想起して)、行動ができない。認知領域が活性化すると、(感情的な行動を抑制しておいて)長期記憶を照合しながら、理知的な判断に基づいて、行動を選択する。認知領域が、優勢に働く時は、感情的に行動してしまうのを抑制できる。
ワーキングメモリは、次のような機能である。(注1)
- (1)いまやっていることを意識に留めておく
- (2)いまやっていることを続けて行なう
- (3)順を追って行なう作業の模倣
- (4)いまやっていることを過去の記憶と比較する
- (5)これからやることを過去の記憶と比較する
- (6)少し先まで推測する
- (7)現在の自分の状態を省察する
- (8)時間経過の意識
- (9)一定のルールに従った作業の遂行
- (10)個々の作業の前後関係の調節
帯状回認知領域の活発な人は、過去の記憶と照合して、自分を省察して、自分の行為の結果を推測できるから、無茶なことはしない。すなわち、感情的、衝動的に、無茶な行動、思考をしない。こういえる。
他者をいじめる人、非行犯罪をおかす人、心の病気になる人は、こうしたワーキングメモリの機能が衰えているとみてよい。前頭前野や帯状回認知領域の機能が衰えているだろう。うつ病については、研究がすすんでいて、容積が小さいという報告がある。
マインドフルネス心理療法は、ワーキングメモリの機能(すなわち、前頭前野や帯状回の機能の一つであるが)を活性化するようである。感情に振り回されずに、刺激を観察しながらとどまり、すぐに軽率な(まぎらし、回避、暴力など)行動をとらずに、よりよき効果のある行動をとることを訓練する方針であるから、前頭前野や帯状回の認知領域の訓練をすることになるだろう。
(注1)
「アスペルガー症候群と学習障害」榊原洋一、講談社、96頁